障害のあるお子さんの成人期への準備 児童期から成人期への福祉制度の主な変更点と手続きのポイント
はじめに:お子さんの成長とともに変化する支援のかたち
お子さんが成長し、やがて成人期を迎えられることは、親御さんにとって大きな喜びであると同時に、将来への様々な不安や疑問を感じる場面でもあるかもしれません。特に、これまで利用してきた障害福祉サービスや関連制度が、成人期になるとどのように変わるのか、どのような手続きが必要になるのかなど、情報が複雑で分かりにくいと感じることもあるのではないでしょうか。
この記事では、障害のあるお子さんが児童期から成人期へ移行するにあたり、知っておきたい福祉制度の主な変更点や、親御さんが準備を進める上でのポイント、手続きの流れについて解説します。情報過多な中でも、必要な情報を効率的に把握し、お子さんの未来を一緒に準備するための一助となれば幸いです。
児童期と成人期で福祉制度はどう変わる?
お子さんが18歳を迎えると、主に「児童福祉法」に基づく支援から、「障害者総合支援法」や「精神保健福祉法」などに基づく成人期向けの支援へと移行します。これは、お子さんの成長に伴い、生活の場や必要な支援の内容が変化することを踏まえた制度設計によるものです。
制度の根拠法が変わることで、利用できるサービスの種類、申請・利用の流れ、費用の負担などが変更になる場合があります。全体像を把握するために、まずは主な変更点を理解することが大切です。
主な制度・サービスの変更点
児童期に利用されていた主な支援制度・サービスが、成人期にどのように移行または変化するのか、代表的なものをいくつかご紹介します。
1. 手当・年金
- 児童期: 特別児童扶養手当(20歳未満の精神または身体に障害を有する児童を養育する保護者等に支給)
- 成人期: 障害基礎年金(20歳以降に障害の状態にある場合に、一定の要件を満たせば支給。20歳前に障害の状態となった場合は、一定の要件の下、20歳になったときから支給開始されることがあります)
- 特別児童扶養手当は20歳で受給資格を失いますが、障害基礎年金は20歳以降の生活を支える重要な経済的支援となる可能性があります。20歳前の障害による障害基礎年金については、市区町村の障害年金担当窓口や年金事務所にご相談ください。
2. 医療費助成
- 児童期: 自立支援医療(育成医療)、重度心身障害者医療費助成制度など
- 成人期: 自立支援医療(更生医療、精神通院医療)、重度心身障害者医療費助成制度など
- 制度名が変わるものもあれば、名称は同じでも対象となる医療範囲や手続きが変更になる場合があります。また、お住まいの自治体独自の医療費助成制度も確認が必要です。
3. 福祉サービス
- 児童期: 障害児通所支援(児童発達支援、放課後等デイサービスなど)、障害児入所支援、短期入所(障害児)、日中一時支援(障害児)など
- 成人期: 障害福祉サービス(居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、短期入所、共同生活援助(グループホーム)、施設入所支援など)、地域生活支援事業など
- 放課後等デイサービスは18歳までですが、成人期には日中の活動の場として生活介護や就労系サービス(就労移行支援、就労継続支援)など様々な選択肢があります。また、地域での生活を支えるグループホームなども成人期から利用が検討できます。児童期に利用していた短期入所や日中一時支援も、成人期向けのサービスとして継続利用できる場合があります。
4. 教育・進路
- 児童期: 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校など
- 成人期: 特別支援学校高等部卒業後の進路(福祉的就労、一般就労、大学・専門学校、各種訓練施設など)、生涯学習、余暇活動など
- 学校を卒業した後、どのような場で学び、働き、地域で生活していくのかを具体的に検討していく時期になります。進路選択肢に合わせて、利用する福祉サービスも変わってきます。
移行に向けた準備と手続きのポイント
お子さんの成人期への移行は、一般的に18歳を迎える数年前から準備を始めることが推奨されます。中学校卒業後の高等部への進学や、高等部卒業後の進路選択など、お子さんのライフステージに合わせて具体的な検討を進めていくことが重要です。
1. 情報収集と相談
- 相談窓口の活用: まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、相談支援事業所に相談してみましょう。お子さんの状況や希望を踏まえ、利用できる制度やサービスの選択肢、移行に向けた手続きについて具体的なアドバイスを受けることができます。
- 学校との連携: 現在お子さんが通っている学校(特別支援学校や通常の学級の特別支援学級など)の先生や進路担当者とも密に連携を取りましょう。卒業後の進路に関する情報や、それに向けて必要な支援について相談できます。
- 情報提供元の確認: 自治体のウェブサイト、障害福祉に関するパンフレット、親の会などの情報も参考にしましょう。
2. 個別支援計画(サービス等利用計画)の作成
成人期に障害福祉サービスを利用するためには、障害者総合支援法に基づくサービス等利用計画が必要になります。これは、お子さんの意向や能力、課題を踏まえ、どのようなサービスをどのように利用するかを具体的に定める計画です。
- 作成主体: 相談支援専門員が作成することが一般的ですが、ご自身で作成することも可能です。
- 内容: サービスを利用する目的、目標、具体的なサービスの種類と内容、利用頻度などが盛り込まれます。
- 重要性: この計画に基づいてサービスの支給決定が行われるため、お子さんにとって必要な支援を適切に盛り込むことが非常に重要です。
3. 障害支援区分の申請(必要に応じて)
障害者総合支援法に基づくサービスの一部(例:生活介護、施設入所支援など)を利用するためには、障害支援区分の認定が必要になります。これは、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示すものです。
- 申請先: お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口
- 流れ: 申請後、心身の状態に関する聞き取り調査(認定調査)、医師の意見書の取得、審査会での判定を経て区分が認定されます。
- ポイント: 児童期に障害児通所支援等を利用していた場合でも、成人期向けのサービス利用には新たに区分認定が必要になる場合があります。早めに市区町村に確認しましょう。
4. 各サービスの申請手続き
利用したいサービスが決まったら、市区町村の担当窓口に申請を行います。必要な書類はサービスの種類や自治体によって異なりますので、事前に確認が必要です。
- 一般的な流れ: サービス利用の申請 → サービス等利用計画案の提出 → 支給決定 → サービス事業者との契約 → サービス利用開始
- 必要書類例: 障害者手帳、マイナンバー、印鑑、医師の意見書、収入状況を証明する書類など。
まとめ:将来を見据えて、一歩ずつ準備を進めましょう
お子さんが成人期を迎えることは、親御さんにとってもお子さんにとっても、新たな生活の始まりです。児童期から成人期への福祉制度の移行は、サービスの種類や手続きが変更になるため、戸惑うこともあるかもしれません。
しかし、適切な時期に情報収集を始め、相談窓口や学校と連携を取りながら、計画的に準備を進めることで、お子さんの成長段階や将来の希望に合わせた適切な支援へと繋げていくことが可能です。
この記事でご紹介した情報が、親御さんが将来を見据えて準備を進めるための一助となれば幸いです。分からないことや不安なことがあれば、抱え込まずに地域の相談窓口に気軽に相談してみてください。お子さんの権利を知り、活用することで、安心して成人期を迎えられるよう、一緒に歩んでいきましょう。