医療的ケアのあるお子さんを育てる親御さんへ 関係する支援制度全体像と探し方
はじめに:医療的ケアのあるお子さんの子育てと支援制度の情報
医療的ケアのあるお子さんを育てている親御さんは、日々のケアに加えて、様々な情報収集や手続きを行う必要があります。医療、福祉、教育など多分野にわたる支援制度があり、どこから手をつけて良いか、どんな制度があるのか分からず、混乱してしまうことも少なくないかもしれません。
このページでは、医療的ケアのあるお子さんとそのご家族に関わる可能性のある主な支援制度について、その全体像と概要を分かりやすく解説します。すべての制度を網羅するものではありませんが、まずはどのような種類の支援があるのかを知り、次に必要な情報を探し出すための「道しるべ」となることを目指しています。
医療的ケア児とは?
「医療的ケア児」とは、人工呼吸器による呼吸管理や喀痰吸引、経管栄養など、日常生活及び社会生活を営むために恒常的な医療的ケアを必要とするお子さんのことです。
医療の進歩により、NICU(新生児特定集中治療室)などに長期入院した後、退院して自宅で過ごせるお子さんが増えています。一方で、ご家族には大きなケア負担や精神的な負担がかかることもあります。国や自治体は、こうしたお子さんとそのご家族を支えるための様々な制度を用意しています。
医療的ケア児に関わる主な支援分野の全体像
医療的ケア児への支援は、一つの制度だけでは完結しません。医療、福祉、教育など、複数の分野にまたがる制度を組み合わせて利用することが一般的です。
親御さんが知っておきたい主な支援分野は以下の通りです。
- 医療に関する支援:
- 医療費の助成
- 訪問看護などの在宅医療支援
- 福祉に関する支援:
- 日常生活のサポート(訪問介護、居宅介護)
- 日中活動やレスパイト(短期入所、日中一時支援、障害児通所支援)
- 日常生活用具や補装具の給付
- 教育に関する支援:
- 学校での医療的ケアの実施
- 特別支援教育(通学、訪問教育)
- 経済的な支援:
- 各種手当や年金
- 税制上の優遇措置
- 相談・情報支援:
- 専門機関による相談支援
- 地域の情報提供
これらの分野に関連する具体的な制度について、概要をご紹介します。
各支援分野の主な制度(概要)
1. 医療に関する支援
- 小児慢性特定疾病医療費助成制度:
- 対象:国が定める小児慢性特定疾病にかかっているお子さん。医療的ケア児に多い多くの疾病が含まれます。
- 概要:指定された医療費(入院・外来、調剤、訪問看護等)の一部または全部が公費で負担されます。所得に応じた自己負担上限額があります。
- 自立支援医療制度(育成医療・精神通院医療):
- 対象:特定の医療を必要とするお子さん。育成医療は身体の障害を除去・軽減する手術など、精神通院医療は精神疾患の通院医療が対象ですが、医療的ケアの内容によっては活用できる場合があります。
- 概要:指定された医療費の自己負担が軽減されます(原則1割負担、所得に応じた上限あり)。
- 重度心身障害者医療費助成制度:
- 対象:お住まいの自治体の基準に該当する重度心身障害のある方(障害者手帳の等級などによります)。
- 概要:医療費の自己負担分が助成されます。制度内容は自治体によって異なります。
- 訪問看護:
- 対象:主治医が必要と認めた方。医療的ケアが必要な方。
- 概要:看護師などが居宅を訪問し、医療的ケアや健康状態の管理、ご家族へのケア指導などを行います。医療保険や介護保険が適用されますが、障害福祉サービスの重度訪問介護でも医療的ケアを伴う支援が可能な場合があります。
2. 福祉に関する支援
- 障害児通所支援:
- 対象:障害のあるお子さん。
- 概要:児童発達支援や放課後等デイサービスなどがありますが、医療的ケア児や重症心身障害児を対象とした事業所もあります。日中の居場所や専門的な支援を提供します。利用には「通所受給者証」が必要です。
- 短期入所(ショートステイ):
- 対象:障害のある方。
- 概要:一時的に施設に入所し、介護や支援を受けられます。医療的ケアが必要なお子さんを受け入れ可能な「医療型短期入所」もあります。親御さんの休息(レスパイト)のためにも活用されます。
- 居宅介護(ホームヘルプサービス):
- 対象:居宅で介護が必要な障害のある方。
- 概要:自宅にヘルパーが訪問し、入浴、排泄、食事などの身体介護や、調理、洗濯などの生活援助を行います。喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な場合は、「重度訪問介護」や自治体独自のサービスなどで対応できることがあります。
- 日常生活用具給付等事業:
- 対象:障害のある方。
- 概要:ポータブル吸引器や特殊寝台など、日常生活を支援するための用具の購入・レンタル費用の一部または全部が給付される制度です。品目や基準額は自治体によって異なります。
- 補装具費支給制度:
- 対象:身体の機能が損なわれた方。
- 概要:義肢や装具、車椅子、電動車椅子、人工内耳などの費用の一部または全部が支給される制度です。修理費用も対象となる場合があります。
3. 教育に関する支援
- 特別支援教育:
- 対象:障害のあるお子さん。
- 概要:一人ひとりのニーズに応じた教育を提供する仕組みです。特別支援学校への就学、地域の小中学校での特別支援学級や通級による指導などがあります。
- 学校における医療的ケア:
- 対象:学校教育を受ける上で医療的ケアが必要なお子さん。
- 概要:学校に看護師などが配置され、お子さんが学校で安全に医療的ケアを受けながら学習できるよう支援する取り組みが進められています。具体的な体制は自治体や学校によって異なります。訪問教育を受けている場合も、教員と看護師が連携して支援を行う場合があります。
4. 経済的な支援
- 特別児童扶養手当:
- 対象:20歳未満で、精神または身体に基準以上の障害のあるお子さんを育てている親御さん。
- 概要:お子さんの障害の程度に応じて支給される手当です。所得制限があります。
- 障害児福祉手当:
- 対象:20歳未満で、身体または精神に重度の障害があり、日常生活において常時介護が必要なお子さん。
- 概要:一定基準を満たす重度のお子さんに支給される手当です。所得制限があります。
- 障害者控除:
- 対象:本人、または控除対象配偶者や扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合。
- 概要:所得税や住民税の計算において、一定の金額が所得から控除されます。特別障害者、同居特別障害者などの区分があります。
- 生活福祉資金貸付制度:
- 対象:低所得者、高齢者、障害者の世帯。
- 概要:資金の貸付や、民生委員による必要な相談援助が行われます。障害者世帯向けの資金の種類もあります。
5. 相談・情報支援
- 障害児相談支援事業所:
- 対象:障害児通所支援などを利用する障害のあるお子さんとその保護者。
- 概要:お子さんの心身の状況や環境、サービス利用の意向などを踏まえ、「サービス等利用計画案」を作成したり、サービス事業者等との連絡調整を行います。情報収集の拠点としても活用できます。
- 市町村の障害福祉担当窓口:
- 対象:お住まいの地域の住民。
- 概要:地域に密着した障害福祉サービスや制度に関する情報提供、申請受付、相談などを行います。まずは地域の窓口に相談してみることが第一歩となる場合が多いです。
- 保健所:
- 対象:地域の住民。
- 概要:専門職(保健師など)が、地域における保健医療サービスの提供や相談支援を行います。難病や慢性疾患に関する相談も可能です。
- 基幹相談支援センター:
- 対象:地域の障害のある方やそのご家族。
- 概要:地域の相談支援の中核的な役割を担う機関です。複雑困難な事例に対応したり、地域の相談支援事業所を支援したりします。
- 医療機関の医療ソーシャルワーカー(MSW):
- 対象:受診・入院している患者さんやそのご家族。
- 概要:病気や障害に伴って生じる様々な生活上の問題について相談に応じ、情報提供や社会資源の活用支援を行います。退院後の生活や利用できる制度について相談できます。
これらの制度を利用するためのステップ(全体像)
医療的ケアのあるお子さんが福祉サービスなどを利用するまでの一般的な流れは以下のようになります。
- 情報収集・相談: まずは地域の相談窓口(市町村の障害福祉課や基幹相談支援センターなど)や、かかりつけ医、入院していた病院の医療ソーシャルワーカーなどに相談し、利用できる可能性のある制度やサービスに関する情報を集めます。
- 申請(必要に応じて): 障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳)や小児慢性特定疾病の医療受給者証など、制度利用の前提となる証明書や受給者証の申請手続きを行います。医療的ケア児の場合、身体障害者手帳(肢体不自由、内部障害など)を取得できることがあります。
- 障害支援区分の認定(必要に応じて): 障害者総合支援法に基づくサービス(居宅介護など)を利用する場合、障害支援区分の認定が必要となることがあります。認定調査を受け、区分が決まります。
- サービス等利用計画案の作成: 多くの障害福祉サービスを利用する際には、「サービス等利用計画」の作成が必要です。相談支援事業所と契約し、お子さんの状態や目標、必要なサービスについて相談しながら計画案を作成してもらいます。
- 各制度への申請・利用開始: サービス等利用計画などができたら、市町村にサービスの利用申請をします。決定後、「受給者証」などが交付され、サービス提供事業所と契約を結び、利用を開始します。医療費助成や手当など、サービス利用計画が不要な制度もありますので、それぞれの手続きを確認します。
自分に合った情報を見つける・整理するコツ
- まずは身近な相談窓口へ: 地域の市町村の障害福祉担当窓口や、かかりつけ医、医療機関のMSWに相談するのが第一歩です。地域の情報に詳しいため、具体的な制度やサービス、手続きについて案内してもらえます。
- 「医療的ケア児等コーディネーター」を活用: 医療的ケア児等支援法に基づき、専門的な知識を持つコーディネーターが配置されている場合があります。相談支援事業所や市町村、基幹相談支援センターなどにいることがありますので、問い合わせてみる価値があります。
- 情報をリスト化・整理する: 取得した手帳や受給者証、利用できる制度、相談した窓口などをメモしておくと、情報が整理しやすくなります。
- 一人で抱え込まない: 情報収集や手続きは大変な作業です。家族や地域の支援者、相談窓口に頼ることをためらわないでください。
まとめ:情報収集の難しさを乗り越えて
医療的ケアのあるお子さんを育てる親御さんが直面する情報収集の困難さは、決して一人だけのものではありません。多岐にわたる制度があるからこそ、どこから手を付けて良いか分からなくなってしまうのは当然のことです。
大切なのは、一度にすべてを知ろうとせず、まずは「何に困っているのか」「どんな支援があれば助かるのか」を整理し、身近な相談窓口に一歩踏み出してみることです。地域の専門家は、親御さんの状況を聞き、利用できる制度やサービス、次のアクションについて具体的に教えてくれるはずです。
このページが、医療的ケアのあるお子さんのために利用できる支援制度の全体像を把握し、情報探しの手助けとなれば幸いです。一人で悩まず、利用できる支援や相談先を頼りながら、お子さんとの日々を大切に過ごされてください。