お子さんが将来働くために 親が知っておきたい就労支援制度
はじめに
大切なお子さんの成長とともに、将来の「働くこと」について考える機会が増えてきたという親御さんは多いのではないでしょうか。
「うちの子に合った働き方があるのだろうか」 「どんな支援制度があるのか、難しくてよく分からない」 「手続きはどうすればいいのだろう」
情報が多すぎて、どこから手をつければ良いか迷ってしまうこともあるかもしれません。
このサイト「私の権利を知ろう」では、障害のある方が将来に向けて「働く」という選択肢を考える際に利用できる、様々な就労支援制度について分かりやすく解説します。これらの制度は、働くための準備から実際の就労、職場での定着までをサポートするものであり、お子さんの希望や特性に合った働き方を見つけるための一助となります。
この記事では、主な就労支援制度の概要、対象者、利用の流れ、そして相談先についてご説明します。お子さんの「働く」という将来を一緒に考える上で、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
障害のある方の働く選択肢と主な就労支援制度の全体像
障害のある方の働く選択肢は一つではありません。一般企業に就職する、障害者枠で働く、福祉的なサポートを受けながら働くなど、様々な働き方があります。そして、それぞれの働き方を実現するために、様々な支援制度が用意されています。
主な就労支援制度は、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスに含まれるものが中心となります。これらは、働くためのスキル習得や訓練、職場の開拓、就労後の定着支援など、段階に応じたサポートを提供します。
全体像としては、以下のような制度があります。
- 就労移行支援: 一般企業での就職を目指す方が、知識やスキル向上のための訓練や就職活動のサポートを受けるサービスです。
- 就労継続支援(A型・B型): 一般企業での就労が難しい方が、雇用契約を結んで働く(A型)か、雇用契約を結ばずに訓練を受ける(B型)サービスです。福祉的な支援を受けながら、それぞれのペースで働く機会を得ます。
- 就労定着支援: 就職後、職場に安定して働き続けられるよう、企業や関係機関との調整、日常生活に関する相談などを行うサービスです。
また、これらの障害福祉サービスと連携しながら、ハローワークの専門窓口や障害者就業・生活支援センターといった機関も、求職活動の支援や職場での課題解決に関するサポートを行っています。
まずは、これらの制度がどのような目的で、どのようなサポートを提供するものなのか、概要を理解することから始めてみましょう。
主な就労支援制度の概要と具体的な支援内容
ここでは、障害福祉サービスに含まれる主な就労支援制度について、それぞれ詳しくご紹介します。
1. 就労移行支援
- 目的: 一般企業等への就職を目指す方が、働くために必要な知識や能力を習得し、就職活動を行うことをサポートするサービスです。
- 対象者: 原則として、18歳以上65歳未満の障害のある方で、一般企業等への就職を希望し、知識や能力の向上、求職活動などが見込まれる方。
- 支援内容:
- 適性評価・就職準備: 個別のスキルや経験、希望に応じたカリキュラム作成、ビジネスマナー、パソコンスキル、コミュニケーション能力などの訓練を行います。
- 求職活動支援: 履歴書の作成、面接練習、企業情報の収集、ハローワークへの同行など、具体的な就職活動のサポートをします。
- 職場体験・実習: 実際に企業で働く体験の機会を提供し、適性を見極めたり、働く上での課題を把握したりします。
- 就職後の定着支援: 就職後も、必要に応じて事業所の職員が職場を訪問したり、相談に乗ったりすることで、職場への定着をサポートします(就労定着支援サービスに繋がることもあります)。
- 利用期間: 原則として2年間です。
2. 就労継続支援A型
- 目的: 一般企業での就労が難しいものの、雇用契約を結んで働くことが可能な方が、必要な知識や能力の向上を目指しつつ、働く機会を提供するサービスです。
- 対象者: 65歳未満で、企業等に就労することが困難な方のうち、雇用契約に基づき、継続的な就労が可能と見込まれる方。具体的には、就労移行支援を利用したが一般企業への就労に至らなかった方や、特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが就労に至らなかった方などです。
- 支援内容:
- 雇用契約: 利用者と事業所との間で雇用契約が結ばれます。
- 給与の支払い: 雇用契約に基づき、各地域の最低賃金以上の賃金が支払われます。
- 作業・訓練: 生産活動(商品の製造・販売、清掃、データ入力など)を通じて、働くスキルや体力、社会性を身につけます。
- 生活相談: 働く上での悩みだけでなく、日常生活に関する相談支援も行われます。
- 利用期間: 特に定めはありません。
3. 就労継続支援B型
- 目的: 一般企業での就労や、雇用契約を結んで働くことが難しい方が、比較的短時間の訓練や軽作業を行いながら、働く機会や社会参加の場を提供するサービスです。
- 対象者: 就労移行支援事業等を利用したが一般企業等の雇用に結びつかなかった方や、一定年齢に達している方などで、就労の機会等を通じて生産活動にかかる知識及び能力の向上や維持が期待される方。
- 支援内容:
- 雇用契約なし: 事業所との雇用契約は結びません。
- 工賃の支払い: 雇用契約ではないため賃金ではなく「工賃」が支払われます。工賃は生産活動による収益から経費を差し引いたもので、一般的にA型事業所の賃金よりも低くなります。
- 軽作業・訓練: 利用者の体調やペースに合わせた作業(部品の組み立て、農作業、創作活動など)や、社会生活を送るための訓練を行います。
- 生活リズムの安定: 通所することで、生活リズムを整えることにも繋がります。
- 利用期間: 特に定めはありません。
これらの制度は、お子さんの現在の状況や将来の希望によって、適したものが異なります。
障害福祉サービスの利用の流れ(就労支援制度も共通)
就労支援制度を含む障害福祉サービスを利用するには、「障害福祉サービス受給者証」を取得する必要があります。一般的な手続きの流れは以下のようになります。
- 相談: まずは市区町村の障害福祉課や相談支援事業所(特定相談支援事業者)に相談します。お子さんの状況や希望を伝え、利用できる制度について情報収集を行います。
- 申請: 市区町村の窓口で、障害福祉サービスの利用申請を行います。この際、医師の診断書や意見書などが必要になる場合があります。
- 聞き取り調査(アセスメント): 申請後、市区町村の担当者や相談支援専門員がお子さんやご家族から状況やニーズについて聞き取りを行います。これにより、どのような支援が必要か、障害支援区分が必要かなどが判断されます。
- 障害支援区分の認定(必要な場合): サービスの必要度を判断するため、障害支援区分が認定されます。訪問調査や医師の意見書に基づき、専門家による審査会を経て決定されます。
- サービス等利用計画案の作成: 特定相談支援事業者と契約し、お子さんの希望や状況、目標などを踏まえた「サービス等利用計画案」を作成します。これは、どのようなサービスを、どのくらいの頻度で利用するかなどを盛り込んだ、支援全体の設計図となるものです。
- サービス担当者会議: 作成した計画案について、利用者本人・家族、相談支援専門員、サービス提供事業者(就労移行支援事業所など)の担当者が集まり、内容を検討・調整します。
- サービス等利用計画の決定・受給者証の交付: 計画案がまとまると、市区町村により計画が決定され、「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。この受給者証に、利用できるサービスの種類や量などが記載されています。
- サービス事業者との契約・利用開始: 受給者証を受け取った後、利用したいサービスを提供している事業所と契約を結び、サービスの利用を開始します。
申請からサービス開始までには、通常1ヶ月〜数ヶ月程度の時間がかかる場合があります。 早めに情報収集や相談を始めることをお勧めします。
相談窓口・情報源
お子さんの将来の就労や、利用できる支援制度について相談できる窓口はいくつかあります。一人で悩まず、まずは相談してみることが大切です。
- 市区町村の障害福祉担当課: 障害福祉サービス全般に関する情報提供や申請手続きの窓口です。
- 相談支援事業所(特定相談支援事業者): サービス利用計画の作成支援や、様々な相談に応じます。地域の事業所については、市区町村の窓口で紹介してもらえます。
- 障害者就業・生活支援センター: 障害のある方の身近な地域において、就業面及び生活面の一体的な相談・支援を行っています。ハローワーク、医療、福祉、教育等の関係機関と連携しながらサポートします。
- ハローワークの専門窓口(専門援助部門): 障害のある方の就職に関する専門的な相談や求人紹介、職業訓練のあっせんなどを行います。
- 障害者職業センター: 障害のある方一人ひとりの状況に応じた職業リハビリテーションを実施し、就職や職場適応に関する専門的な支援を行っています。
これらの窓口では、お子さんの障害の種類や程度、これまでの経験、将来の希望などを丁寧に聞き取り、どのような働き方や支援制度が考えられるか、具体的な情報を提供してくれます。
まとめ
お子さんが将来、社会の一員として働き、自立した生活を送ることは、親御さんにとって大きな願いの一つかと思います。その願いをサポートするために、国や自治体には様々な就労支援制度が用意されています。
これらの制度は、働くためのスキル習得から、自分に合った仕事を見つけること、そして職場で長く安定して働くことまで、様々なステップで障害のある方を支えるものです。
情報収集や手続きには時間や労力がかかることもありますが、焦る必要はありません。まずは、お子さんの「働くこと」への思いや、どのような暮らしをしたいかを尊重し、一緒に話し合うことから始めてみてはいかがでしょうか。そして、地域の相談窓口や専門機関のサポートも積極的に活用してください。
この情報が、お子さんの将来の可能性を広げ、希望に繋がる一歩となることを願っています。