お子さんの可能性を広げる障害者手帳 種類と手続き、支援への活かし方
はじめに
お子さんが障害によって生活上の困難を抱えているとき、どのような支援があるのだろうか、何から始めれば良いのだろうかと、多くの情報の中で立ち止まってしまうことがあるかもしれません。ご家族だけでその全てを把握し、適切な支援に繋がる道を探し出すことは、決して簡単なことではないと存じます。
障害のあるお子さんの支援を検討する上で、一つの大切な「入り口」となるものに「障害者手帳」があります。障害者手帳を取得することで、様々な福祉サービスや支援制度の利用に繋がり、お子さんの成長や自立、ご家族の暮らしをサポートするための選択肢が広がります。
しかし、障害者手帳にはいくつか種類があり、それぞれ対象となる障害や申請方法が異なります。この記事では、障害のあるお子さんに関わる主な3つの手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)について、それぞれの概要、対象、申請手続きのポイント、そして取得した手帳をどのように支援に活かしていけるのかを分かりやすくご説明いたします。
障害者手帳とは?その全体像
障害者手帳は、それぞれの根拠法に基づき、身体や精神に一定以上の永続的な障害がある方に対し、都道府県や政令指定都市などが交付するものです。この手帳を提示することで、様々な福祉サービスや助成、公共料金などの割引といった支援を受けることができます。
障害者手帳には、主に以下の3種類があります。
- 身体障害者手帳: 身体障害者福祉法に基づき交付されます。
- 療育手帳: 法律上の根拠はありませんが、全国の自治体で知的障害のある方に一律的な基準に基づき交付されています。
- 精神障害者保健福祉手帳: 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき交付されます。
これらの手帳は、それぞれの障害の種類や程度に応じて等級(または程度)が定められており、それによって受けられる支援の内容が異なる場合があります。また、複数の障害がある場合は、それぞれの障害の種類に応じて複数の手帳を取得できる可能性もあります。
手帳の取得自体が直接的な支援になるわけではありませんが、多くの福祉サービスや支援制度は、利用の条件としていずれかの障害者手帳の提示を求めています。そのため、手帳を取得することは、お子さんの状況に応じた多様な支援にアクセスするための重要な第一歩となるのです。
3種類の障害者手帳の概要と対象
お子さんの障害の種類によって、申請の対象となる手帳が異なります。ここでは、それぞれの手帳の概要と主な対象についてご説明します。
1. 身体障害者手帳
- 根拠法: 身体障害者福祉法
- 対象: 身体に永続する障害がある方で、政令で定められた基準(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)に該当すると認められる方。具体的には、以下のいずれかの障害が対象となります。
- 視覚障害
- 聴覚または平衡機能の障害
- 音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害
- 肢体不自由
- 内部障害(心臓機能、じん臓機能、呼吸器機能、ぼうこうまたは直腸機能、小腸機能、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能、肝臓機能の障害)
- 等級: 1級から6級までの区分があります(一部の障害については7級も対象となる場合がありますが、複数の7級の障害が重複する場合などに限り手帳の交付対象となります)。
2. 療育手帳
- 根拠法: 法律上の定めはなく、各自治体の要綱に基づき交付されます。ただし、知的障害者福祉法に定められている知的障害者に関する施策の対象者を明確にするという共通の目的があります。
- 対象: 知的障害のある方。児童の場合は、おおむね18歳になるまでの間に生じた知的機能の障害により、日常生活に継続的な支援が必要となる方が対象となります。
- 程度: 多くの場合、「A」(重度)と「B」(その他)に区分されますが、自治体によってはさらに細かく区分(例: A-1, A-2, B-1, B-2など)している場合があります。これは、厚生労働省の通知に基づき知的障害の程度を判定し、その判定結果に基づいて区分が定められます。
3. 精神障害者保健福祉手帳
- 根拠法: 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
- 対象: 何らかの精神疾患(てんかん、発達障害、高次脳機能障害を含む)により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある方。
- 等級: 1級から3級までの区分があります。初診日から6ヶ月以上経過していることが申請の条件となります。お子さんの場合は、発達障害やてんかんなどが対象となる可能性があります。
お子さんの障害の種類や状態によって、どの手帳の対象となるかをご確認いただくことが重要です。医師や地域の相談窓口に相談しながら、適切な手帳について検討を進めることができます。
手帳を取得することで受けられる主な支援・サービス
障害者手帳を取得することで、以下のような様々な支援やサービスを利用できる可能性が広がります。手帳の種類や等級、お住まいの自治体によって内容は異なりますが、代表的なものを挙げます。
- 障害福祉サービス: 児童発達支援、放課後等デイサービス、短期入所、居宅介護など、障害者総合支援法に基づくサービスの利用申請に必要な場合があります。(※サービス利用には「通所受給者証」や「障害福祉サービス受給者証」も必要です)
- 手当: 特別児童扶養手当、障害児福祉手当などの申請に必要な場合があります。
- 医療費助成: 自立支援医療(育成医療、精神通院医療)、重度心身障害者医療費助成制度などの申請に必要な場合があります。
- 税制上の優遇: 障害者控除など、所得税や住民税の控除を受けられる場合があります。
- 公共料金・交通費の割引: 電気、ガス、水道料金の割引、鉄道、バス、タクシー、飛行機などの運賃割引、有料道路通行料金の割引などを受けられる場合があります。
- 日常生活用具の給付: 補装具や日常生活用具(特殊寝台、入浴補助用具など)の購入費用の助成を受けられる場合があります。
- 公共施設の利用料減免: 美術館、博物館、映画館などの入場料や利用料の割引・減免を受けられる場合があります。
これらの支援は、お子さんの成長をサポートし、ご家族の生活の負担を軽減するために役立ちます。手帳を取得された際には、どのような支援が利用できるか、お住まいの自治体の窓口や相談支援事業所にご確認いただくことをお勧めいたします。
障害者手帳の申請手続きのステップ
手帳の種類によって必要な書類や判定方法に違いがありますが、基本的な申請の流れは以下のようになります。
- 相談: まずは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談に行かれることをお勧めします。お子さんの状況を伝え、どの手帳の対象となる可能性があるか、申請に必要な書類などを確認できます。相談支援事業所などでも相談に乗ってもらえます。
- 申請書類の入手: 窓口で申請に必要な書類一式を受け取ります。
- 診断書・意見書等の作成依頼: 指定された書式の診断書または医師の意見書を作成してもらうため、お子さんの主治医に依頼します。療育手帳の場合は、児童相談所や知的障害者更生相談所での判定が必要になります。
- 必要書類の準備: 申請書、医師の診断書または意見書(療育手帳の場合は判定結果)、顔写真、マイナンバーに関する書類など、必要な書類を準備します。自治体によって必要書類が異なる場合があるため、事前に確認が必要です。
- 書類の提出: 準備した書類一式を、市区町村の障害福祉担当窓口に提出します。
- 審査・判定: 提出された書類に基づき、都道府県や政令指定都市が審査を行います。身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の場合は書類審査が基本ですが、必要に応じて追加の確認が入ることがあります。療育手帳の場合は、専門家による判定(お子さんとの面談や検査)が行われます。
- 手帳の交付: 審査や判定の結果、基準に該当すると認められた場合に手帳が交付されます。不交付となる場合や、判定結果(等級・程度)に不服がある場合は、不服申立ての手続きを取ることも可能です。
申請に必要な書類の例:
- 申請書
- 診断書(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳の場合)
- 医師の意見書(自治体によっては精神障害者保健福祉手帳で診断書の代わりに使える場合あり)
- 判定結果通知書(療育手帳の場合)
- 顔写真(規定のサイズ、枚数)
- 申請者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- マイナンバーに関する書類(マイナンバーカードまたは通知カード+本人確認書類)
- 印鑑(必要な場合)
- その他、自治体が必要とする書類
診断書の作成には時間がかかる場合があるため、早めに主治医に相談することをお勧めします。また、診断書の作成には文書料がかかることが一般的です。
手帳を支援に「活かす」ためのポイント
手帳を取得したら、それで終わりではありません。お子さんの可能性を広げ、より豊かな生活を送るために、手帳をどのように活用していくかが重要です。
- 相談窓口の活用: 手帳取得後に、どのような支援やサービスが利用できるか分からない場合は、遠慮なく市区町村の障害福祉担当窓口や相談支援事業所(障害のある方やその家族からの相談に応じ、情報提供やサービス利用計画の作成などを行う専門機関)に相談しましょう。お子さんの状況やニーズに合った支援を一緒に考えてくれます。
- サービス等利用計画の作成: 障害福祉サービスを利用する場合、多くはサービス等利用計画(障害児支援利用計画)が必要となります。これは、お子さんの課題や目標、利用するサービスの種類や頻度などを盛り込んだ個別の支援計画です。相談支援専門員が作成をサポートしてくれますが、親御さんの希望や意見をしっかり伝えることが、より良い計画に繋がります。
- 定期的な情報収集: 支援制度は改正されることがあります。自治体の広報誌やウェブサイト、相談窓口からの情報提供などを通じて、利用できる新しい支援がないか、常に情報をチェックしておくと良いでしょう。
- 手帳の更新手続き: 身体障害者手帳や療育手帳、精神障害者保健福祉手帳には、再認定や更新の手続きが必要な場合があります。有効期限が近づいたら、忘れずに手続きを行いましょう。特に精神障害者保健福祉手帳は2年ごとに更新が必要です。
よくある疑問
Q: 申請のタイミングはありますか? A: 身体障害者手帳、療育手帳は、原則として障害が固定したと認められる状態になってから申請します。精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患による初診日から6ヶ月以上経過していることが必要です。お子さんの障害の種類や状態によって適切な時期が異なりますので、主治医や専門機関に相談してください。
Q: 手帳の等級(区分・程度)によって何が違いますか? A: 手帳の等級(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳)や区分・程度(療育手帳)は、障害の重さを段階的に示したものです。これによって、利用できるサービスの種類や量、受けられる助成や割引の内容などが異なる場合があります。重度の区分ほど受けられる支援が多くなる傾向にありますが、具体的な基準は制度によって異なります。
Q: 手帳を取得すると、何か不利益はありますか? A: 障害者手帳を取得したことで直接的な不利益が生じることは、基本的にはありません。個人情報が公になることもなく、本人の同意なく支援機関以外に情報が提供されることもありません。手帳はあくまで支援を受けるための証明であり、取得は任意です。
関連する他の制度や情報源
- 障害者総合支援法: 障害福祉サービスの根拠となる法律です。
- 特別児童扶養手当、障害児福祉手当: 障害のある児童を養育する家庭への手当制度です。
- 自立支援医療: 障害のある方の医療費負担を軽減する制度です。
- 補装具費支給制度、日常生活用具給付等事業: 身体機能を補う装具や、日常生活を便利にする道具の購入費を助成する制度です。
- 特別支援教育: 障害のあるお子さんが学校で適切な教育的支援を受けるための制度です。
これらの制度についても、当サイトや市区町村の窓口などで情報収集をすることができます。
相談窓口
障害者手帳に関することや、手帳取得後の支援については、以下の窓口に相談できます。
- お住まいの市区町村 障害福祉担当課: 申請手続きの窓口であり、地域の情報提供の中心となります。
- 相談支援事業所: 障害のある方や家族からの相談に応じ、必要な情報提供や助言、サービス等利用計画の作成支援を行います。
- 基幹相談支援センター: 地域の相談支援の中核的な役割を担い、相談支援事業所と連携しながら、より専門的な相談にも対応します。
- 児童相談所、知的障害者更生相談所: 療育手帳の判定機関であり、知的障害に関する相談にも応じます。
- 精神保健福祉センター: 精神障害に関する専門的な相談支援機関です。
ご家族だけで悩まず、これらの専門機関をぜひ頼ってください。
まとめ
障害のあるお子さんの支援を検討する上で、障害者手帳は様々な制度やサービスに繋がる大切な第一歩となります。身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種類があり、それぞれ対象となる障害や申請手続きが異なりますが、適切な手帳を取得することで、お子さんの成長を支え、ご家族の暮らしを豊かにするための多くの選択肢が得られます。
情報収集や手続きには時間と労力がかかることもあるかと存じますが、焦らず、一つずつ進めていくことが大切です。この記事が、お子さんの可能性を広げるための道のりにおいて、少しでもお役に立てれば幸いです。分からないことや不安なことは、地域の相談窓口に遠慮なくご相談ください。