お子さんの支援制度を理解する鍵 医学的診断と福祉の定義の違いを知ろう
はじめに:診断名と福祉制度、どう関係するの?
お子さんに障害の診断がついた時、親御さんは様々な情報に触れる機会が増えるかと思います。「この診断名なら、どんな支援が受けられるのだろう」「色々な制度があるらしいけれど、我が子に関係するのはどれだろう」といった疑問や、情報が多すぎて混乱してしまうこともあるかもしれません。
お子さんの障害に対する支援制度は多岐にわたりますが、その多くは「医学的な診断名」そのものよりも、「福祉的な基準に基づく認定」に基づいて提供されます。医学的な診断は、医師がお子さんの状態を医学的な知見から判断するものですが、福祉制度の利用には、その診断とは別に、制度ごとに定められた「障害の状態」に該当するかどうかの認定が必要となる場合があります。
この医学的診断と福祉の定義の違いを理解することは、お子さんに必要な支援制度を適切に探し、利用するための重要な第一歩となります。この記事では、この二つの違いと、それが支援制度の利用にどのように関わるのかを分かりやすくご説明します。
医学的診断とは
医学的診断は、医師が診察や検査に基づいて行う、疾患や障害の状態を特定するものです。例えば、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠如・多動症(ADHD)」「ダウン症候群」「脳性麻痺」といった特定の診断名がつけられます。
これは、お子さんの現在の健康状態や発達の特性を医学的な視点から把握し、今後の治療や療育の方向性を検討する上で非常に重要です。診断名は、医療機関や専門家とのコミュニケーションにおいて共通認識を持つための基盤となります。
福祉的な「障害」の定義・認定とは
一方、福祉的な「障害」の定義や認定は、主に障害者総合支援法や児童福祉法といった福祉関連の法律や制度に基づいて行われます。これは、特定の支援やサービスが必要な状態であるかを判断するためのものであり、必ずしも医学的診断名と直接的に結びつくわけではありません。
福祉制度を利用するためには、多くの場合、以下のような福祉的な認定や手続きが必要となります。
- 障害者手帳の取得:
- 身体障害者手帳、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳といった種類があります。
- それぞれに認定基準が定められており、医師の診断書や判定機関による面接・検査などに基づいて交付されます。手帳の等級によって受けられるサービスや割引が異なります。
- 医学的な診断名があっても、手帳の基準に該当しない場合は取得できないこともあります。逆に、診断名がなくても、基準に該当すれば手帳が取得できる場合もあります。
- 障害支援区分の認定:
- 主に18歳以上の障害のある方が、障害者総合支援法に基づくサービス(居宅介護、短期入所など)を利用する際に必要となる場合があります。
- 心身の状態や生活状況に関する市町村の調査や医師の意見書に基づき、コンピューター判定と審査会を経て区分1〜6の認定が行われます。
- お子さんの年齢によっては、障害児向けのサービス(児童発達支援、放課後等デイサービスなど)を利用する際に「通所受給者証」が必要となりますが、障害支援区分の認定は原則不要です(代わりに、サービス等利用計画の作成などが必要になります)。
- その他の制度の対象者認定:
- 特別児童扶養手当や障害年金など、所得制限や特定の状態基準に基づいて受給資格が判定される制度もあります。
なぜこの違いを知ることが重要なのか?
この違いを理解しておくと、以下のようなメリットがあります。
- 適切な制度にたどり着きやすくなる: 医学的診断名は、お子さんの状態を理解する出発点ですが、それだけで「受けられる支援リスト」が決まるわけではありません。「この診断名だから、まずは〇〇手帳の申請を検討してみよう」「この年齢なら、まずは児童発達支援や放課後等デイサービスの利用申請のために、市町村の窓口や相談支援事業所に相談してみよう」といったように、福祉的な認定プロセスを意識することで、必要な支援制度への道筋が見えやすくなります。
- 手続きの目的が明確になる: 手帳申請や障害支援区分認定といった手続きが、「医学的な状態を記録するため」ではなく、「福祉サービス利用の要件を満たすため」に行われることが理解でき、手続きを進めるモチベーションにつながります。
- 情報収集の混乱を減らせる: 診断名と福祉の定義が混同されることで生じる「診断されたのに何もサービスが受けられないの?」といった誤解を防ぎ、必要な情報(手帳の申請方法、通所受給者証の申請方法など)に焦点を当てて効率的に集められるようになります。
支援制度利用に向けた一般的なステップ
お子さんに障害の可能性がある、または診断を受けた後、福祉サービス利用を検討する際の一般的なステップは以下のようになります。
- 専門機関への相談: 医師による診断や、自治体の窓口(障害福祉課、児童相談所、保健センターなど)、または地域の相談支援事業所に相談します。お子さんの状態や年齢、困りごとを伝え、どのような支援制度があるか情報収集を始めます。
- 福祉的認定の検討・申請: 相談を通じて、利用したいサービスの要件として手帳や障害支援区分認定が必要かを確認し、該当する場合は申請手続きを行います。
- 例:療育手帳の申請、身体障害者手帳の申請など。
- 例:18歳以上で特定の障害福祉サービスを利用する場合、障害支援区分の申請が必要となることがあります。
- サービス利用計画の作成: 多くの障害福祉サービスを利用する際には、「サービス等利用計画」または「個別支援計画」の作成が必要になります。これは、お子さんのニーズや目標、利用するサービスの種類や頻度などを具体的に定めた計画書です。相談支援事業所や、サービスを提供する事業所(セルフプランの場合はご自身)が作成します。
- サービス利用の申請: 計画に基づき、利用したいサービスの申請を自治体に行います。
- サービスの利用開始: 自治体からの決定通知を受け、サービス事業所と契約を結び、サービスの利用を開始します。
どこに相談すれば良い?
医学的診断と福祉の定義の違いや、具体的な支援制度について相談したい場合は、以下の窓口が考えられます。
- お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口: 地域の福祉制度に関する情報提供や、各種申請手続きの受付を行っています。まずはここで全体像を把握するのも良いでしょう。
- 相談支援事業所: 障害のある方やその家族が、適切なサービスを利用できるよう、情報の提供やサービス等利用計画の作成支援、関係機関との連絡調整などを行う専門機関です。診断と支援制度の橋渡し役として非常に頼りになります。
- 児童相談所 / 障害児等療育支援事業: 18歳未満のお子さんに関する様々な相談に応じてくれます。
- 発達障害者支援センター: 発達障害に関する専門的な相談や支援を行っています(診断名の有無に関わらず相談できる場合があります)。
これらの窓口では、お子さんの医学的診断名だけでなく、日々の生活での具体的な困りごとや希望を伝えることで、どのような福祉的な支援が考えられるかを一緒に検討してくれます。
まとめ
お子さんの障害に関する医学的診断は、医療的なケアや特性理解の出発点ですが、福祉制度の利用には、手帳の取得や障害支援区分認定といった福祉的な基準に基づく手続きが必要です。この二つの「障害」の捉え方の違いを理解することは、複雑に感じる支援制度の世界を整理し、お子さんに本当に必要なサポートにスムーズにたどり着くための「鍵」となります。
一人で抱え込まず、まずは地域の相談窓口や専門機関に「診断はついたけれど、これからどんな福祉的な支援を受けられるのか分からない」と率直に相談してみることをお勧めします。きっと、お子さんの成長とご家族の暮らしを支える情報やサポートが見つかるはずです。