お子さんの日常生活を支える居宅介護(ホームヘルプ) 制度の概要と申請・利用の流れ
はじめに
日々の家事やお仕事、そしてお子さんのケアに追われ、情報収集に多くの時間を割くのが難しいと感じていらっしゃる親御さんも少なくないかと存じます。特に、お子さんの障害特性に応じたきめ細やかなケアが必要な場合、ご家族だけでその全てを担うのは大きな負担となることもあります。
「自宅で受けられる支援にはどんなものがあるのだろう?」「利用するにはどうしたらいいのだろう?」といった疑問をお持ちかもしれません。
この記事では、障害のあるお子さんの日常生活を自宅でサポートするために利用できる「居宅介護(ホームヘルプサービス)」という制度について、その概要から申請・利用の流れまでを分かりやすくご説明いたします。この情報が、少しでも皆さまの情報収集の負担を減らし、必要な支援に繋がる一助となれば幸いです。
居宅介護(ホームヘルプ)とは?
居宅介護とは、「障害者総合支援法」に基づいた、障害のある方や障害児の日常生活を自宅で支援するサービスです。いわゆる「ホームヘルプサービス」と呼ばれるものの一つで、ホームヘルパーなどの専門スタッフがご家庭を訪問し、生活をサポートします。
この制度の目的は、障害のある方が住み慣れた自宅で安心して生活を送れるよう、必要な援助を提供することです。お子さんの場合も、障害特性やご家庭の状況に応じて、必要な支援を受けることができます。
居宅介護で受けられる具体的なサービス内容
居宅介護で受けられるサービスは、大きく分けて以下の3つがあります。お子さんの状態や必要な支援によって、利用できるサービスの種類や内容は個別に判断されます。
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身体介護
- 食事、排泄、入浴、着替えなどの介助
- 体位変換や移動の介助
- 服薬の介助 など
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家事援助
- 調理、洗濯、掃除、買い物などの家事
- 生活必需品の買い出し など ※原則として、ご本人やご家族の分の家事が対象となります。
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通院等介助
- 通院や官公署への手続きなどの外出における移動の介助(車への乗降、院内・施設内での移動の介助など) ※医療機関内の付き添いや、医療行為は行いません。
これらのサービスを組み合わせることで、お子さんの日常生活における困りごとをサポートし、ご家族の負担を軽減することが期待できます。ただし、どこまでのサービスが利用できるかは、市区町村による支給決定や、作成されるサービス等利用計画に基づき個別に判断されます。
対象者と利用条件
居宅介護の対象となるのは、原則として障害者総合支援法に基づく「障害福祉サービス受給者証」をお持ちの方です。障害のあるお子さんが利用する場合も、この受給者証が必要になります。
受給者証の交付を受けるためには、まず市区町村に利用申請を行い、障害支援区分の認定を受ける必要があります。障害支援区分は、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを示すもので、区分1から区分6まであります(数字が大きいほど支援の必要度が高いとされます)。居宅介護を利用するためには、原則として区分1以上の認定が必要となります。
ただし、18歳未満の障害児の場合は、障害支援区分ではなく、お子さんの心身の状態やサービス利用の必要性などに基づき、個別に利用の可否や支給量が判断されます。
居宅介護の申請・利用の流れ
居宅介護を利用するためには、いくつかのステップを踏む必要があります。全体像と具体的な流れをご説明します。
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相談
- まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口か、指定特定相談支援事業所に相談することから始めます。
- 相談支援専門員が、お子さんの状況やご家族のニーズを聞き取り、利用できる可能性のあるサービスについて情報提供や助言を行います。
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利用申請
- 市区町村の障害福祉担当窓口に、居宅介護を含む障害福祉サービスの利用申請を行います。
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障害支援区分の認定調査(障害児の場合は不要な場合あり)
- 申請後、市区町村の職員や委託を受けた調査員がご家庭を訪問し、お子さんの心身の状態や日中の活動状況、介護者の状況などについて聞き取り調査を行います。
- この調査結果と医師の意見書などに基づき、市区町村が審査を行い、障害支援区分が認定されます(障害児の場合は、この区分認定を経ずに、個別の状況に基づきサービス利用の可否や支給量が判断されることが一般的です)。
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サービス等利用計画案の作成依頼
- 支給決定見込みが出たら、指定特定相談支援事業所に「サービス等利用計画案」の作成を依頼します。
- 相談支援専門員が、お子さんやご家族の意向、障害支援区分(またはお子さんの状態)などを踏まえ、利用するサービスの種類や内容、目標などを盛り込んだ計画案を作成します。
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支給決定・受給者証の交付
- 作成されたサービス等利用計画案などを踏まえ、市区町村がサービスの支給量(利用できる時間数や回数など)を最終決定し、「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。
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事業所の選択・契約
- サービスを利用したい事業所(居宅介護事業所)を選びます。事業所によっては、対応できる障害種別や時間帯などが異なる場合がありますので、お子さんの状況に合った事業所を探すことが重要です。
- サービス内容や利用料金、事業所の運営方針などを確認し、納得した上で利用契約を結びます。
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サービス利用開始
- 契約した事業所とサービス提供に関する詳細(訪問日時、具体的なサービス内容など)を調整し、サービスの利用が開始されます。
手続きにはある程度の時間がかかる場合がありますので、早めに情報収集や相談を始めることをお勧めいたします。
利用にかかる費用(自己負担)
居宅介護を含む障害福祉サービスの利用者負担は、原則としてサービスにかかった費用の1割です。ただし、所得に応じてひと月あたりの自己負担額に上限(負担上限月額)が設けられています。
- 生活保護世帯:0円
- 市区町村民税非課税世帯:0円
- 市区町村民税課税世帯:
- 所得割28万円未満:4,600円
- 所得割28万円以上:37,200円
- (入所施設利用者など、その他基準あり)
この負担上限月額は、複数の障害福祉サービスを利用している場合でも、世帯ごとに適用されます。詳しい負担額については、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にご確認ください。
注意点
- 支給量の決定: 利用できるサービスの種類や時間は、市区町村による支給決定に基づきます。希望するサービス内容や時間数が必ずしも全て認められるわけではありません。
- ヘルパーの派遣: 居宅介護は、ご自宅にお子さんとヘルパーがいる状況でのサービス提供が基本です。ヘルパーがお子さんだけを自宅に残してサービスを提供することは原則としてできません。
- 家事援助の範囲: 家事援助は、お子さん(障害のある方)が日常生活を営むのに必要な範囲の援助が対象です。例えば、ご家族のための家事や、普段使っていない部屋の掃除などは対象外となる場合があります。
- 申請から利用開始まで: 申請から受給者証の交付、事業所との契約を経てサービス利用開始までには、通常1ヶ月〜2ヶ月程度の時間がかかることがあります。
関連する他の制度や情報源
居宅介護以外にも、お子さんの状況に応じて利用できる様々な障害福祉サービスや制度があります。
- 短期入所(ショートステイ): 短期間施設に入所し、入浴、排泄、食事などの介護や支援を受けられます。ご家族の休息(レスパイト)のためにも利用されます。
- 日中一時支援: 日中に一時的に事業所などで預かってもらい、見守りや社会活動への参加を促すサービスです。
- 移動支援: ガイドヘルパーの付き添いにより、外出時の移動をサポートするサービスです。
- 相談支援事業: サービス等利用計画の作成や、障害福祉サービス全般に関する相談・情報提供を行います。
これらのサービスは、居宅介護と組み合わせて利用することも可能です。詳細については、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や相談支援事業所にご確認ください。
相談窓口
制度の詳細や申請手続きについて分からないことがある場合は、一人で抱え込まず、専門機関に相談することをお勧めします。
- お住まいの市区町村 障害福祉担当窓口: 障害福祉サービス全般に関する情報提供や申請受付を行っています。
- 指定特定相談支援事業所: サービス等利用計画の作成支援や、障害福祉サービスに関する相談を受け付けています。事業所のリストは、お住まいの市区町村のウェブサイトなどで確認できることが多いです。
まとめ
障害のあるお子さんの日常生活を支える居宅介護(ホームヘルプサービス)は、ご家庭でのケアの負担を軽減し、お子さんが住み慣れた環境で安心して生活を送るための重要な支援制度です。
申請から利用開始までにはいくつかのステップがありますが、まずは市区町村の窓口や相談支援事業所に相談することから始めることができます。情報過多な状況で何から手をつければ良いか迷われることもあるかと存じますが、一歩ずつ、必要な情報を集め、相談しながら進めていくことが大切です。
この記事が、居宅介護という選択肢を知り、お子さんやご家族にとってより良い日常生活を実現するための一助となれば幸いです。