障害のあるお子さんの外出をサポートする移動支援事業とは? 制度の概要と申請手続き
はじめに
お子さんに障害がある場合、通学や通所、あるいは余暇活動のための外出に付き添いが必要となることがあります。親御さんとしては、日々の送迎や外出の付き添いは、大きな負担になることも少なくありません。
「移動支援事業」は、このような外出の付き添いをサポートする制度です。この制度をうまく活用することで、お子さんの社会参加が進むだけでなく、親御さんの負担軽減にもつながることが期待できます。
この記事では、移動支援事業の制度概要、利用できる方、具体的な申請手続きや利用の流れについて、分かりやすくご説明します。
移動支援事業とは? 制度の概要
移動支援事業は、障害のある方や障害児が、地域での生活を維持するために必要な外出の付き添いなどを支援する制度です。「障害者総合支援法」に基づく「地域生活支援事業」の一つとして、各市町村が主体となって実施しています。
この制度の目的は、社会生活上必要不可欠な外出や余暇活動などにおける移動を支援することで、自立生活や社会参加を促進することにあります。ホームヘルパーなどの支援者が、外出時の移動の介助や、目的地での必要な支援を行います。
どのような外出で利用できるのか?
移動支援事業で利用できる外出の目的は、市町村によって定められています。一般的には、以下のような外出が対象となることが多いです。
- 社会生活上必要不可欠な外出:
- 役所や銀行、病院などへの外出(ただし、診療行為そのものに関する介助は対象外)
- 冠婚葬祭への出席
- 選挙の投票
- 余暇活動や社会参加のための外出:
- 買い物
- 映画や観劇、スポーツ観戦
- 散髪や理美容
- 友人との交流
- 公園やレジャー施設への外出
ただし、以下の外出は原則として対象外となることが多いです。
- 通勤や営業活動など、経済活動に関する外出
- 通年かつ長期にわたる通学・通所(ただし、一時的な利用や、放課後等デイサービスへの送迎など、市町村によっては対象となる場合もあります。詳細はお住まいの市町村にご確認ください。)
- 通院(ただし、通院に関わる手続きや、通院以外の目的での病院訪問などは対象となることがあります)
- 家族・知人等による送迎や介助が可能な場合
利用を希望される外出が対象となるか、事前にお住まいの市町村に確認することが重要です。
誰が利用できるのか? 対象者・利用条件
移動支援事業の対象者は、お住まいの市町村によって定められています。原則として、障害者総合支援法の対象となる障害のある方(身体障害、知的障害、精神障害、難病等)や、障害児が対象です。
具体的な対象範囲(年齢、障害の種類や程度、障害支援区分の要件など)は、市町村の条例や規則によって異なる場合があります。例えば、「身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかの交付を受けている方」や、「特別支援学校に在籍している児童」など、具体的な要件が定められていることがあります。
まずは、お住まいの市町村の障害福祉担当窓口に相談し、お子さんが対象となるかを確認することから始めましょう。
申請から利用までの流れ
移動支援事業を利用するためには、お住まいの市町村への申請が必要です。一般的な流れは以下のようになります。
- 市町村の障害福祉担当窓口への相談: まずは、お住まいの市町村の窓口に相談し、移動支援事業の概要や対象者、申請方法について説明を受けます。この際に、お子さんの状況や、どのような外出で利用を希望するかなどを伝えて、対象となるか確認しましょう。
- 申請書類の提出: 市町村から提供される申請書類に必要事項を記入し、提出します。申請には、障害者手帳や医師の意見書、申請者の本人確認書類などが必要となる場合があります。必要書類はお住まいの市町村にご確認ください。
- 聞き取り調査(アセスメント): 市町村の職員や相談支援専門員が、申請された方の心身の状況、移動支援が必要な理由、生活環境などについて聞き取りを行います。これに基づき、移動支援の必要性や、支給決定される時間数などが検討されます。お子さんの状況や、具体的にどのような場面で支援が必要かなどを詳しく伝えることが大切です。
- 支給決定: 市町村は、聞き取り調査の結果などに基づき、移動支援の利用の要否や、月あたりの支給時間数を決定します。支給決定されると、「支給決定通知書」や「受給者証」などが交付されます。この受給者証には、サービスの種類(移動支援)、支給量(時間数)、有効期間などが記載されています。
- 事業者の選択・契約: 支給決定を受けたら、市町村の指定を受けた移動支援事業所の中から、サービスを利用したい事業所を選びます。いくつかの事業所について、サービス内容や料金、提供体制などを比較検討することができます。利用したい事業所が決まったら、その事業所と利用契約を結びます。
- サービス利用計画の作成: 多くの市町村では、相談支援専門員が「サービス等利用計画案」を作成し、これを市町村に提出する必要があります。この計画案は、お子さんにとってどのような移動支援が必要か、どのような目標を持ってサービスを利用するかなどを具体的に示すものです。事業所と連携して作成を進めることもあります。
- サービス利用の開始: 事業所との契約やサービス利用計画の作成が完了したら、移動支援サービスの利用を開始できます。事業所の支援者と調整して、具体的なサービス利用日時や内容を決定します。
サービス利用にかかる費用
移動支援事業の利用にかかる費用は、原則としてサービス費用の1割が自己負担となります。ただし、前年の所得に応じて負担上限月額が定められており、ひと月に利用したサービスの自己負担額の合計が、この上限月額を超えた場合は、それ以上の負担はかかりません。
負担上限月額は、世帯の所得状況に応じて設定されています。詳細はお住まいの市町村にご確認ください。また、事業所によっては、サービス利用料の他に、交通費などの実費負担が必要となる場合があります。
注意点
- 市町村による制度の違い: 移動支援事業は地域生活支援事業のため、制度の詳細(対象者、支給時間数の算定方法、対象となる外出目的など)は、市町村によって異なります。必ずお住まいの市町村の情報を確認してください。
- 事業者選び: サービスを提供する事業所は複数ある場合があります。どのような支援者がいるか、希望する時間帯に対応可能かなどを比較検討し、お子さんやご家庭に合った事業所を選ぶことが大切です。
- サービス等利用計画: 多くの市町村でサービス等利用計画の作成が必須となっています。相談支援専門員との連携が必要になるため、早めに相談を開始すると良いでしょう。
関連する他の制度
移動支援事業と似た制度として、障害者総合支援法の「介護給付」や「訓練等給付」に含まれる以下のサービスがあります。これらは国が一律の基準で定めているサービスで、対象となる障害や支援の内容が移動支援とは異なります。
- 同行援護: 主に視覚障害により移動に著しい困難がある方が対象で、外出時に移動に必要な情報の提供や代筆・代読なども行います。
- 行動援護: 知的障害や精神障害により、行動に著しい困難がある方が対象で、外出時の危険回避や行動抑制などが主な支援内容となります。
移動支援事業は、これらの制度では対象とならない外出や、市町村独自の判断で必要とされる移動支援を補完する役割も担っています。
相談窓口
移動支援事業に関するご相談や申請手続きについては、まずお住まいの市町村の障害福祉担当窓口にお問い合わせください。また、相談支援事業所でも、制度利用に関する相談やサービス等利用計画の作成支援を受けることができます。
まとめ
移動支援事業は、障害のあるお子さんの外出をサポートし、社会参加を広げるために役立つ大切な制度です。通学・通所だけでなく、買い物や余暇活動など、様々な外出に利用できる可能性があります。
制度の内容や対象者は市町村によって異なりますが、まずは情報収集の第一歩として、お住まいの市町村の窓口に相談してみることをお勧めします。この制度を上手に活用することで、お子さんの可能性を広げ、ご家族の負担軽減にも繋がることでしょう。