障害のあるお子さんを扶養するご家庭が知っておきたい 税の負担を軽減する障害者控除とは? 手続きとポイント
はじめに
お子さんが障害をお持ちの場合、医療費や福祉サービス利用料など、様々な費用がかかることがあります。家計への負担を感じる中で、「何か利用できる制度はないだろうか」とお考えになる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
多くの支援制度は直接的な給付や割引ですが、税金に関する優遇制度も家計の負担を軽減する大切な手段の一つです。特に「障害者控除」は、所得税や住民税の計算において所得から一定額を差し引くことで、税額を軽減する制度です。
この記事では、障害のあるお子さんを扶養されているご家庭が利用できる可能性のある「障害者控除」について、その概要から具体的な手続き、知っておきたいポイントまでを分かりやすくご説明します。制度を理解し、適切に活用することで、少しでも家計の負担を軽減するための一助となれば幸いです。
障害者控除とは? 制度の概要と対象者
障害者控除は、納税者本人や、納税者と生計を一にする配偶者や扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合に受けられる所得控除の一つです。所得控除とは、所得税や住民税を計算する際に、所得金額から一定額を差し引くことができる仕組みです。所得金額が少なくなることで、結果としてかかる税金(所得税・住民税)が軽減されます。
対象となる方:
- 納税者本人
- 納税者と生計を一にする配偶者や扶養親族(お子さんなど)
所得税法上の障害者とは:
障害者控除の対象となる「所得税法上の障害者」は、障害者手帳の有無だけで判断されるものではなく、以下のいずれかに該当する方です。
- 常に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある方(重度の知的障害者など)。この場合は市区町村長などの認定があれば対象となります。
- 精神保健福祉法で定める精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方。
- 知的障害者と判定された方(療育手帳など)。
- 身体障害者福祉法で定める身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている方。
- 戦傷病者手帳の交付を受けている方。
- 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けている方。
- 常に病床に伏しており、複雑な事柄を理解し、処理する能力がない方。
- 年齢65歳以上の方で、その障害の程度が上記1, 2, 4のいずれかに準ずるものとして市区町村長などの認定を受けている方。
お子さんの場合は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかをお持ちであれば、通常はこの障害者控除の対象となります。手帳をお持ちでない場合でも、上記1や7のように市区町村長の認定があれば対象となるケースがあります。
控除額について
障害者控除の控除額は、障害の程度によって異なります。
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一般の障害者:
- 所得税:27万円
- 住民税:26万円
- 所得税法上の障害者に該当する方が対象です。
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特別障害者:
- 所得税:40万円
- 住民税:30万円
- 特別障害者とは、所得税法上の障害者のうち、特に重度の障害がある方として定められています。例えば、身体障害者手帳1級または2級、療育手帳A判定、精神障害者保健福祉手帳1級の方などが該当します。
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同居特別障害者:
- 所得税:75万円
- 住民税:53万円
- 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族で、納税者本人、配偶者、生計を一にする親族のいずれかとの同居を常としている方が対象です。お子さんが特別障害者に該当し、ご両親のどちらかと同居している場合などがこれに該当します。
お子さんの手帳の種類や等級によって、どの区分に当てはまるかご確認ください。
申請・利用の流れと具体的な手続き
障害者控除を受けるための手続きは、会社員などの給与所得者か、それ以外の所得者(個人事業主など)かで方法が異なります。
給与所得者の場合(年末調整)
多くの場合、年末調整で手続きを行います。
ステップ 1:書類の準備 障害のあるお子さんの障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳など)をご準備ください。手帳以外で市区町村長の認定を受けている場合は、その認定書などが必要です。
ステップ 2:給与所得者の扶養控除等申告書の提出 勤務先から配られる「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、控除対象となるお子さんの氏名、マイナンバー、生年月日などを記載し、「障害者」の欄にチェックを入れ、障害の区分(一般、特別、同居特別)を選択・記入します。
ステップ 3:勤務先への提出 記入した申告書を勤務先に提出します。通常、障害者手帳などの証明書類の提示を求められる場合がありますので、準備しておきましょう。
年末調整でこの手続きを行うことで、その年の所得税が軽減されて還付されたり、翌年の住民税が軽減されたりします。
給与所得者以外の方や年末調整で手続きを忘れた場合(確定申告)
年末調整で手続きができなかった場合や、個人事業主などで確定申告が必要な場合は、ご自身で確定申告を行うことで障害者控除を適用できます。
ステップ 1:書類の準備 障害のあるお子さんの障害者手帳などの証明書類、源泉徴収票(給与所得者の場合)、必要経費の領収書(個人事業主の場合)など、確定申告に必要な書類一式をご準備ください。
ステップ 2:確定申告書の作成 税務署のホームページから入手できる確定申告書を作成します。申告書の該当箇所に、控除対象となるお子さんの情報や障害者控除の区分、控除額を記入します。
ステップ 3:証明書類の添付または提示 確定申告書には、障害者手帳などの証明書類の写しを添付して提出します。e-Tax(電子申告)の場合は、添付書類の提出を省略できる場合もありますが、提示を求められることがありますので保管しておいてください。
ステップ 4:税務署への提出 作成した確定申告書を所轄の税務署に提出します(郵送、窓口提出、e-Taxなど)。
確定申告の期間は通常、毎年2月16日から3月15日までです。過去の申告について誤りがあった場合や、控除の適用を忘れていた場合は、「更正の請求」という手続きにより、過去5年間までさかのぼって税金の還付を受けられる可能性があります。
知っておきたいポイント・注意点
- 扶養控除との関係: 障害者控除は、16歳以上の子にかかる扶養控除とは別に受けられる控除です。例えば、16歳以上のお子さんが障害者控除の対象となる場合、扶養控除と障害者控除の両方を受けることができます。
- 扶養親族の合計所得金額: 障害者控除の対象となる扶養親族は、その年の合計所得金額が48万円以下(給与所得のみの場合は給与収入が103万円以下)である必要があります。
- 複数の扶養者がいる場合: お子さんを複数の方が扶養している場合(例:父母)、障害者控除は、そのお子さんを扶養親族として申告する方のうち、いずれか一人だけが受けることができます。どちらの方が控除を受けるかは、ご家庭で話し合って決めることになります。通常は、所得の高い方が控除を受けた方が税軽減効果が高くなります。
- 同居特別障害者控除の「同居」: 原則として一つ屋根の下で生活している状態を指しますが、病気療養のため入院している場合なども、医師の診断書などにより同居を常としていると認められれば対象となるケースがあります。詳細は税務署にご確認ください。
- 住民税への影響: 障害者控除は所得税だけでなく、住民税にも影響します。年末調整や確定申告を行うことで、翌年度の住民税額も軽減されます。
関連情報・相談窓口
障害者控除に関する具体的な内容やご自身の状況に合わせた適用については、以下の窓口にご相談いただけます。
- 税務署: 国税庁のホームページで管轄の税務署を調べることができます。電話や税務署の窓口で相談が可能です。
- お住まいの市区町村の税務担当窓口: 住民税に関する内容や、65歳以上の障害者認定などについて相談できます。
- 税理士: 複雑な申告や相談が必要な場合は、税理士に依頼することもできます(費用がかかる場合があります)。
制度に関する最新情報や詳細な要件は、国税庁のウェブサイトをご確認いただくか、直接税務署にお問い合わせいただくことをお勧めします。
まとめ
障害のあるお子さんを扶養されているご家庭にとって、障害者控除は所得税と住民税の負担を軽減できる重要な制度です。お子さんの障害者手帳などをご確認いただき、ご自身の状況に合わせて適切に申告することで、税制上の優遇を受けることができます。
年末調整や確定申告の手続きは煩雑に感じられるかもしれませんが、この記事がその一助となれば幸いです。不明な点があれば、遠慮なく税務署などの専門機関に相談してみましょう。適切な手続きを行うことで、受けられるはずの支援を確実に受けられるようにしましょう。