障害支援区分認定調査の準備とポイント:サービス利用に繋がる伝え方ガイド
はじめに
お子さんの成長や暮らしを支えるために、障害福祉サービスの利用を検討される際、多くの場合「障害支援区分」の認定が必要になります。この認定は、サービスの種類や支給量を決める上で非常に重要なステップです。
障害支援区分の認定は、市区町村の調査員による認定調査を経て行われます。この調査では、お子さんの日頃の様子や必要な支援について詳しく聞かれます。親御さんとしては、「何を伝えればいいのか」「どう準備すればいいのか」と不安を感じることも少なくないでしょう。
この記事では、障害支援区分認定調査とは何か、そして調査に向けて親御さんができる準備や、調査当日に大切な伝え方のポイントについて分かりやすく解説します。この情報が、お子さんにとって必要な支援に繋がる一助となれば幸いです。
障害支援区分とは?なぜ認定調査が重要なのか
障害支援区分とは、障害のある方一人ひとりの心身の状態や、支援を必要とする度合いを示すものです。非課税世帯の場合など、サービスを利用するご本人や世帯の収入により自己負担上限額は異なりますが、利用できるサービスの種類やサービス量の根拠となり、サービス等利用計画を作成する上での基礎情報となります。
障害支援区分は区分1から区分6まであり、数字が大きいほど支援の必要性が高いと判断されます。この区分を認定するために行われるのが、認定調査です。
認定調査では、調査員がお子さんやご家族から直接、日頃の生活状況や困りごと、必要な介助などについて聞き取りを行います。この聞き取りの結果と、主治医などから提出される医師の意見書に基づいて、コンピュータによる一次判定が行われ、その後、専門家による審査会を経て最終的な障害支援区分が決定されます。
お子さんの普段の様子や必要な支援について正確に伝えることは、適切な障害支援区分認定を受け、お子さんにとって本当に必要なサービス利用に繋がるために非常に重要です。
認定調査の流れ
障害支援区分の認定を受けるまでの一般的な流れは以下の通りです。
- 申請: お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にサービスの利用申請を行います。この申請と同時に障害支援区分の認定申請も行います。
- 認定調査: 申請後、市区町村から委託された調査員がお子さんのご自宅などを訪問し、心身の状況や生活状況について聞き取り調査を行います。ご家族(主に親御さん)がお子さんの様子を説明します。
- 医師の意見書作成依頼: 市区町村がお子さんの主治医などに医師の意見書の作成を依頼します。
- 一次判定: 調査結果と医師の意見書に基づき、コンピューターで一次判定が行われます。
- 二次判定(審査会): 一次判定の結果、医師の意見書、調査時の特記事項などを踏まえ、専門家(医師、保健師、福祉専門職などで構成)による審査会で総合的に審査し、障害支援区分が決定されます。
- 結果通知: 市区町村から申請者へ障害支援区分の結果が通知されます。
この流れの中で、親御さんが直接関わるのが「認定調査」です。この調査での伝え方が、一次判定、そして最終的な区分決定に大きく影響するため、事前の準備が大切になります。
認定調査で何を聞かれる?調査項目と評価の視点
認定調査は、全国共通の調査項目に基づいて行われます。主な調査項目は以下の通りです。
- 移動: 寝返り、起き上がり、座位保持、立ち上がり、歩行、移動など
- 身の回りのこと: 食事、排泄、衣服の着脱、入浴、洗顔、歯磨き、整髪など
- コミュニケーション: 意思表示、読み書き、人との交流など
- 行動: 徘徊、落ち着きのなさ、異食、物を壊す、自傷行為、他人への迷惑行為、閉じこもり、昼夜逆転など
- 特別な医療: 点滴、経管栄養、ストーマの処置、褥瘡の処置、導尿、透析、人工呼吸器、痰の吸引など
これらの項目について、調査員はお子さんの普段の様子や、介助がどの程度必要かなどを質問します。例えば、「歩行はできますか?」という質問に対し、「はい、できます」と答えるだけでは不十分な場合があります。「介助なしでどのくらいの距離を、どのくらいの時間歩けるか」「不安定でふらつくことがあるか」「転倒しやすいか」「介助があればどれくらい歩けるか」など、具体的な状況や介助の必要性を伝えることが重要です。
調査員はチェックリストに基づいて状況を確認しますが、リストにない普段の困りごとや、行動障害なども「特記事項」として聞き取られ、二次判定の際に考慮されます。単に「できる・できない」だけでなく、「どの程度の援助があればできるか」「どのくらいの頻度で困った状況が起こるか」「そのために家族がどのような対応をしているか」といった具体的な状況を伝えることが、お子さんの状態を正確に反映するために非常に大切です。
認定調査のための具体的な準備
認定調査に向けて、親御さんが事前にできる準備はいくつかあります。少し手間はかかりますが、調査をスムーズに進め、お子さんの状態を正確に伝えるために役立ちます。
1. 日頃の様子を整理・記録しておく
調査員は短い時間での聞き取りを行います。その場で日頃の様子を全て漏れなく伝えるのは難しいものです。普段の生活で「どんな時に」「どのようなことで」困っているのか、どのような介助が必要なのかを具体的に整理し、書き出しておくことをお勧めします。
- 具体的な困りごとの例をメモする:
- 食事に時間がかかる、自分で食べられない、介助が必要な手順は?
- 排泄の失敗が多い、トイレに一人で行けない、声かけや見守りが必要か?
- 着替えに時間がかかる、ボタンや紐の操作が難しい、前後ろを間違えるなど、具体的な困難は?
- 入浴時に危険がある、体を洗う際に介助が必要な部分は?
- 声かけしないと始められない・続けられない活動は?
- 急に走り出す、人混みでパニックになる、大きな声を出す、物を投げるなどの行動は?
- 夜眠れない、朝起きられない、昼夜逆転しているといった睡眠に関する困りごとは?
- 決まった手順や環境でないと落ち着かない、変化に強い抵抗があるなど、こだわりの強さは?
- 見守りがないと危険な行動をとることは?
- どの程度の声かけや見守り、身体的介助が必要か?
- 介助の時間や頻度を具体的に: 「常に」「時々」「週に数回」「1回あたり〇分かかる」など、具体的な数字を交えて伝えるとより分かりやすいです。
- 困りごとが起こる時間帯や状況: 朝の支度時、食事中、外出時、人が多い場所など、具体的な状況も整理します。
- 1日のスケジュール: 普段の生活の簡単なスケジュールを作成しておくと、調査員が生活全体をイメージしやすくなります。
これらの情報は、調査員に提出する義務はありませんが、調査中に手元で見ながら話したり、調査員に渡して参考にしてもらったりすることができます。
2. 医師の意見書について主治医と相談する
医師の意見書は、医学的な側面からお子さんの状態を伝える重要な書類です。医師に意見書を作成してもらう際、可能であればお子さんの日頃の様子や、サービスを利用したい理由などを伝えておくと良いでしょう。日頃の困りごとをまとめたメモなどを渡して参考にしてもらうことも有効かもしれません。ただし、医師の判断に基づき記載されるものであり、特定の記載を強制することはできません。
3. 関係機関からの資料を準備する
もし、療育手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、小児慢性特定疾病医療受給者証など、診断や手帳に関する書類があれば、写しを準備しておくと良い場合があります(求められる場合)。また、学校や通所している事業所などからの報告書や、個別支援計画など、お子さんの状況が分かる資料があれば、調査員に見てもらうことで、より多角的に情報を伝えることができます。
4. 調査を受ける環境を整える
調査は静かで落ち着ける場所で行うのが理想です。お子さんがリラックスして過ごせる時間帯を選ぶなど、調査を受ける環境についても事前に市区町村の担当者と相談しておくと良いでしょう。可能であれば、お子さんが調査員と直接話す機会を持つこともありますが、お子さんの特性によっては同席が難しければ、その旨を伝えてご家族のみで対応することも可能です。
調査当日のポイント:面談で大切なこと
調査当日は、準備したメモなどを活用しながら、以下の点を意識して伝えましょう。
- 正直に、具体的に伝える: 調査員は、お子さんが「できること」だけでなく、「できないこと」「困っていること」、そして「どれだけ介助や支援が必要か」を把握しようとしています。普段、当たり前のように行っている介助やサポートも、意識して具体的に言葉にすることが大切です。例えば、「食事は一人で食べられます」だけでなく、「介助は不要ですが、食べこぼしが多く、食後に片付けが必要です」「食べ終わるまでに時間がかかり、声かけが必要です」のように具体的に伝えます。
- 「日頃」の状況を伝える: 調査は、お子さんの「日頃」の状況を評価するものです。たまたま調子が良かった日や、逆に非常に悪かった日ではなく、普段の平均的な様子を伝えるように心がけましょう。
- 困っている状況や必要な支援について、事例を交えて説明する: 「落ち着きがない」だけでなく、「デパートに行くと、急に走り出してしまい、常に手を繋いでいないと危険です」「家の中でも、目を離すと家具によじ登ることがあり、見守りが必要です」のように、具体的な場面を話すと伝わりやすくなります。
- 家族以外の視点も伝える: 学校の先生や、利用している事業所のスタッフなどから、お子さんの様子について何か言われたことがあれば、その内容も伝えても良いでしょう。家庭とは違う場面での様子を伝えることで、お子さんの状態をより正確に理解してもらえます。
- 分からないことは質問する: 調査の目的や項目について不明な点があれば、遠慮なく調査員に質問しましょう。
調査員は、調査項目に基づきながら、お子さんの状態を理解しようとしています。慌てず、普段通りの様子を思い出しながら、正直に具体的に伝えることが最も重要です。
結果に納得がいかない場合
認定された障害支援区分や、支給決定されたサービス量に納得がいかない場合は、市区町村の担当窓口に相談することができます。それでも解決しない場合は、不服申し立ての制度を利用することも可能です。詳細は、市区町村の担当窓口にご確認ください。
相談窓口
障害支援区分の申請や認定調査について不明な点や不安な点があれば、以下の窓口に相談することができます。
- お住まいの市区町村 障害福祉担当課: 制度全般や手続きについて確認できます。
- 相談支援事業所: サービス等利用計画の作成だけでなく、障害支援区分の申請手続きに関する相談にも応じてくれる場合があります。地域の事業所については、市区町村の窓口で紹介を受けられます。
まとめ
障害支援区分認定調査は、お子さんが必要な障害福祉サービスを利用するための大切な手続きです。調査に向けて日頃の様子や困りごと、必要な介助を具体的に整理し、準備しておくことで、調査員にお子さんの状態を正確に伝えることができます。
調査当日は、準備したメモを活用し、正直に、具体的に、事例を交えながら普段の様子を伝えましょう。不安な点があれば、市区町村の窓口や相談支援事業所に相談することもできます。
この記事が、親御さんの認定調査に対する不安を少しでも和らげ、お子さんにとってより良い支援に繋がる一助となれば幸いです。