障害のあるお子さんの将来のために 親ができるライフプランとお金の備え
はじめに
お子さんが成長され、いずれ成人期を迎えられるにあたり、「この子の将来はどうなるのだろう」「私たち親がいなくなった後、この子はどう暮らしていくのだろう」といった不安や疑問をお持ちの親御さんもいらっしゃるかもしれません。
特に、障害のあるお子さんの場合は、将来の生活や経済的なことについて、より計画的に準備を進めていく必要があると感じることもあるかと存じます。何から考え始めれば良いのか、どのような選択肢があるのか、情報が多すぎて迷ってしまうこともあるかもしれません。
この記事では、障害のあるお子さんの将来のために、親御さんができる「ライフプラン」の考え方と、「お金の備え」について、全体像を分かりやすく解説いたします。様々な制度や選択肢がある中で、ご自身のご家庭にとって何が必要かを整理するための一助となれば幸いです。
なぜ、障害のあるお子さんの将来に向けたライフプランが必要なのでしょうか?
お子さんの将来のライフプランを考えることは、すべてのご家庭にとって大切なことですが、障害のあるお子さんの場合には、考慮すべき点がいくつか異なります。
- 長期的な視点での生活設計: 成人後も継続的な支援が必要となる場合が多く、住まい、日中活動、医療、福祉サービスの利用など、長い期間を見通した生活設計が求められます。
- 経済的な準備: 公的な支援制度に加え、将来の生活費、医療費、施設の利用料など、親御さんが元気なうちに計画的な経済的な準備を検討することが重要になる場合があります。
- 意思決定支援と財産管理: 将来、ご本人がご自身で意思決定したり、財産を管理したりすることが難しい場合に備え、どのようにご本人の意思を尊重し、財産を守り、管理していくかを検討しておく必要があります。
- 親なき後への備え: 親御さんに何かあった後も、お子さんが安心して暮らせるように、早い段階から様々な可能性を考えて準備を進めることが、親御さん自身の安心にも繋がります。
これらの点を踏まえ、お子さんの個性や状況、ご家庭の状況に合わせて、柔軟に、しかし着実に準備を進めていくことが大切です。
ライフプランを考える上で考慮すべき要素
障害のあるお子さんのライフプランは、様々な要素が絡み合います。以下のような視点から整理してみましょう。
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将来の生活の場(住まい):
- 親元での生活を続けるのか
- グループホームや施設での生活を検討するのか
- 一人暮らしや地域での生活をサポートするサービスを利用するのか
- 将来的な選択肢としてどのようなものがあるかを知っておくことが重要です。(関連:障害のあるお子さんの自立した暮らしを支える グループホームの基礎知識と利用検討のポイントなど)
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日中活動:
- 就労(一般就労、障害者雇用、就労移行支援・就労継続支援など)
- 福祉的サービス(生活介護、自立訓練など)
- 本人の希望や適性に合わせた活動の場をどのように見つけるか、利用できる制度は何かを知っておきましょう。(関連:お子さんが将来働くために 親が知っておきたい就労支援制度など)
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お金(収入・支出・備え):
- 将来の主な収入源は何か(障害年金、就労収入、親からの支援など)(関連:障害のあるお子さんのための障害年金 20歳前の障害基礎年金の制度と申請手続きなど)
- 将来かかる費用(生活費、医療費、施設の利用料、余暇活動費など)
- これらの費用を賄うための経済的な備え(預貯金、保険、信託、公的制度の活用など)
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医療・ケア:
- 将来的に必要となる可能性のある医療やケア(訪問看護、ヘルパーの利用など)
- 医療費助成制度の活用(関連:障害のあるお子さんの医療費をサポート 育成医療(自立支援医療)の概要と申請手続きなど)
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財産管理・意思決定支援:
- ご本人が将来、ご自身の財産を管理したり、重要な契約を結んだりすることが難しくなった場合に、誰がどのように支援するか。
- 成年後見制度、家族信託、任意後見契約など、様々な方法があります。(関連:お子さんの将来を守るための成年後見制度 親が知っておくべきことなど)
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相談・サポート体制:
- 将来にわたって、誰がどのような形でご本人やご家族をサポートするのか。
- 相談支援事業所、ケアマネージャー、地域の社会資源などをどのように活用していくか。(関連:障害のあるお子さんのサービス利用の「道しるべ」 相談支援事業の役割と探し方など)
これらの要素は互いに関連しており、一つの要素を検討する際には、他の要素への影響も考慮することが大切です。
将来のための「お金の備え」について
ライフプランの中でも、特に経済的な側面に不安を感じる親御さんも多いかもしれません。将来かかる費用への備え方について考えてみましょう。
1. 公的な経済的支援の活用
お子さんが成人すると、児童期に利用していた手当や制度から、成人期向けの制度に移行するものがあります。
- 障害年金: 20歳前の障害を原因とする障害基礎年金があります。お子さんが20歳になられた時点で一定の障害状態にある場合に申請できます。
- 障害福祉サービスに係る費用: 障害支援区分に応じて、様々な障害福祉サービスを利用できますが、所得に応じて自己負担が発生する場合があります(上限が定められています)。
- その他の手当・助成: 重度心身障害者手当など、自治体独自の制度がある場合もあります。医療費助成制度も引き続き活用できます。
これらの公的な支援制度の情報を集め、活用できるものは漏れなく活用することが基本となります。
2. 将来かかる費用のイメージ
将来かかる費用は、お子さんの障害の状況、選択する生活の場や日中活動によって大きく異なります。
例えば、
- 親元で生活する場合: 食費、光熱費、医療費、交通費、日中活動の利用料(自己負担分)、お小遣い、余暇活動費などが主な費用となるでしょう。
- グループホームで生活する場合: 家賃、食費、光熱費、水道費、日用品費、医療費、日中活動の利用料(自己負担分)、お小遣いなどがかかります。家賃や食費には補助が出る制度もあります。
- 施設で生活する場合: 施設の利用料がかかります。所得に応じた負担上限があります。
具体的な金額を予測することは難しいですが、現在かかっている費用や、将来想定される生活スタイルから、ある程度のイメージを持つことが、備えを始める第一歩となります。
3. 親ができる具体的な備えの方法
公的な支援だけでは足りない部分や、不測の事態に備えるために、親御さん自身の資産形成も重要になります。
- 預貯金: 定期的な積立など、目標額に向けて計画的に貯蓄する方法です。流動性があり、最も身近な方法です。
- 生命保険: 親御さん自身に万が一のことがあった場合に、お子さんの生活費等を確保するために検討できます。保険の種類によっては、資産形成や医療保障の機能を持つものもあります。
- 信託:
- 特定贈与信託: 障害のある特定のお子さんを受益者とする信託で、一定額まで贈与税が非課税となる制度です。親御さんの死亡後に信託銀行などが管理を引き継ぎ、お子さんの生活費や医療費などに充てられます。
- 家族信託: 親御さんの財産を、信頼できる家族(例:きょうだい)に託し、お子さんのために管理・運用してもらう仕組みです。柔軟な設計が可能ですが、専門的な知識が必要です。
- その他: 資産運用(投資信託、株式など)を検討される方もいますが、リスクを理解した上で行う必要があります。
どの方法を選択するかは、ご家庭の経済状況、お子さんの将来像、親御さんの考え方によって異なります。一つの方法に絞るのではなく、複数の方法を組み合わせて備えることも可能です。
ライフプラン実行のためのステップ
将来のライフプランを考えることは、一度にすべてを決定するものではありません。段階的に進めていくことが大切です。
- 情報収集: まずは、どのような制度やサービス、選択肢があるのかを知ることから始めましょう。この記事のようなウェブサイト、自治体の窓口、相談支援事業所などから情報を集めることができます。
- 現状の把握: お子さんの現在の状況(年齢、障害特性、好きなこと、苦手なことなど)と、ご家庭の経済状況、親御さんの健康状態などを整理します。
- 将来のイメージ: お子さんが成人後、どのような生活を送ってほしいか、どのような支援が必要になりそうか、漠然としたものでも良いのでイメージしてみましょう。
- 専門家への相談: ライフプラン、お金の備え、財産管理など、一人で抱え込まずに専門家に相談してみましょう。相談先については後述します。
- 計画の立案: 収集した情報や相談内容を踏まえ、現実的な計画を立てます。長期的な視点で、いつ頃までに何を準備するか(例:〇歳までに成年後見制度について調べる、毎月〇円積立する、〇歳になったらグループホームの見学に行くなど)。
- 計画の実行と見直し: 立てた計画を実行し、定期的(例えば1年に一度など)に見直しを行います。お子さんの成長や状況の変化、制度改正などに応じて、計画を修正していくことが重要です。
誰に相談できる? 相談窓口と専門家
将来のライフプランやお金の備えについて考える際には、様々な専門家や機関のサポートを得ることができます。
- 自治体の障害福祉担当窓口: 公的な福祉制度全般に関する情報提供や申請手続きについて相談できます。
- 相談支援事業所: 障害福祉サービスの利用計画作成だけでなく、将来の生活全般に関する相談にも応じてくれます。地域資源に関する情報も持っています。
- 社会福祉士: 障害のある方を含む生活上の様々な課題について、相談に応じ、支援を行います。
- ファイナンシャル・プランナー(FP): 家計や資産形成、保険など、お金に関する専門家です。障害のあるお子さんがいる場合のライフプランに詳しいFPに相談することで、具体的な資金計画についてアドバイスを得られます。
- 弁護士、司法書士: 成年後見制度、家族信託、相続など、法的な手続きや財産管理に関する相談ができます。
- 信託銀行: 特定贈与信託など、信託商品に関する情報提供や手続きを行います。
まずは身近な自治体の窓口や相談支援事業所に相談し、必要に応じて適切な専門家を紹介してもらうのがスムーズな方法かもしれません。(関連:障害のあるお子さんの成長や困りごと 親御さんが頼れる相談窓口ガイドなど)
まとめ
障害のあるお子さんの将来のライフプランとお金の備えについて考えることは、親御さんにとって大きなテーマであり、不安を感じることも当然のことと存じます。
しかし、早くから情報を集め、少しずつでも準備を進めていくことで、将来への見通しが立ち、親御さん自身の安心にも繋がります。一度にすべてを解決しようとせず、まずはできることから一歩ずつ始めてみましょう。
様々な公的な制度や専門家のサポートがありますので、一人で抱え込まずに、利用できる支援は積極的に活用してください。この情報が、親御さんがお子さんの将来のために踏み出す一歩を後押しできれば幸いです。